絵本作家をめざし、国文科で学ぶ|#035 大川 久乃さん
女子聖学院短期大学 国文科 卒業
noteの記事を検索していて、「絵本『おはなし ごほん』原画展」という2021年の記事を見つけました。
絵本の作者、大川久乃さんは女子聖学院短期大学 国文科の卒業とあります。
そして大川さんのnoteとホームページを拝見したところ、たくさんの著書を出版されていて、大活躍されているご様子です。
これは絶対取材しなくては!と思い、ご連絡をしたところ、快くお引き受けいただきました。
「ま く あ け ~くまのたんくんと絵本たち展」の会場である、練馬区大泉の古民家カフェ、サニーデイズキッチンでお話をうかがってまいりました。
最新作は『あわあわ ふわふわ! くまの たんくん』
大川さんは絵本や童話の文章作家
ーー 大川さんの絵本童話作家、詩人としての現在の活動についてお聞かせいただけますか?
私は絵本や童話などの文章作家をしています。
2012年に福音館書店から『キャベツのくすくす』という絵本を出版し、作家デビューしました。
それ以降も何作か絵本を出させていただき、今日、こちらに展示している『あわあわ ふわふわ! くまの たんくん』が最新作となります。
まずは子どもに向かって絵本を作るということをしっかり学びたいと、自分で範囲を狭めて仕事をしてきたところがあるのですが、2020年にあかね書房から『おはなし ごほん』という、やや長めの絵童話を出版させてもらったときに、肩書きに”詩人”が加わることに自然となったりしました。
現在も出版の企画を何作か進めています。
出版社と打ち合わせをして企画を進行させる一方で、新しい創作を行うというのが私の仕事のスタンスです。
出版したあとで、今回のように企画展示を行うこともあります。
それから、私は音楽が好きで、私の周辺には演奏する友人や仲間が多いんですね。
それでイベントを実施して、音楽と一緒に絵本を発表するということが結構あります。
デビュー作である『キャベツのくすくす』を歌にしてくれた友人もいます。
読み聞かせや、わらべうたとかも好きですし、耳で聞いたり、口に出してみたりして、言葉遊びからタイトルが生まれたり、創作のヒントが生まれたりしています。
短大国文科から児童文学の専門学校へ
この進路は高校生のときから決めていました
ーー 女子聖学院短大を卒業されてから現在に至るまでのプロセスをおうかがいできますか?
私は女子聖学院短大を卒業してから児童文学を学ぶために専門学校に進学したのですが、実は専門学校に行くことは高校3年生のときにすでに決めていました。
幼少の頃から創作を行っていて、作家になりたいという思いは強かったのですが、”本の虫”というほど本をたくさん読んでいたわけではないし、文章力に自信があるわけではありませんでした。
語彙力が乏しいことや知識が足りないところも弱点だなと思っていました。
それでまずは国文学を学ぼうと思いました。
それが国文科に進学した理由です。
父は、「短大じゃなくて4年生の大学でじっくり学べば良いのに」と言っていました。
今考えると、なるほどそれも良かったなと思うのですが、当時は早くコマを進めたくて、4年も待っていられない気持ちでした。
児童文学作家に必要な力をつけるために国文科で学ぼうと思ったのですが、英米の文学や文化にも興味があり、ミッション系の大学への憧れもありました。
それで女子聖学院短大を選びました。
私はクリスチャンではないのですが、聖書の授業など、とても楽しかったですね。
高校のときから、国文科で学び児童文学の専門学校に行くと決めて、その通りにしてきたので、短大でも同級生や先生に「私は絵本作家になる」と断言していました。
本は出せなくても、意味があった10年間
専門学校に進学してからは、早く作家になりたいと思っていたので、出版社からきている特別講師の先生などに積極的にアプローチしました。
専門学校を卒業してまもなく『Tuck Chick Born』が出版されて、まあ順調だったのですが、そこから次の『キャベツのくすくす』が出版されるまでに10年かかってしまいました。
やっぱり、神様は見ているもので、私の性格を知っていて、先にニンジンを与えられたんだなと思いました。
『Tuck Chick Born』までとんとん拍子にきたものだから、諦められなくなってしまったというか、ここまでうまくきたのだから、次もうまくやれるだろうと思っているうちに10年間が過ぎていました。
その間にコンクールに2回受賞して、実りのようなものを得たものの、うまく出版までは至らず、現実を思い知らされながらも、創作のよろこびを感じるという日々を過ごしていました。
成果が表れないことはつらいですが、しかし、文章がきちんと書けるようになったのは、この10年があったおかげだと思っています。
想いを持ち続けられる環境があって、応援してくれる人がいて、自分自身が成長できて、やっと本を出版する条件が揃ったのだと思います。
この間、上野の国際子ども図書館でアルバイトをしたり、出版社やカフェでアルバイトをしながら創作を続けました。
そのうちに結婚をして、『キャベツのくすくす』の出版と同時期に出産をしました。
絵本作家のキャリアとお母さんのキャリアが同時にスタートしたんです。
『羊をめぐる冒険』に因んだ北海道旅行
ーー 女子聖学院短大の思い出をお聞かせいただけますか?
短大での時間は、本当に大切な時間だったと思っています。
私は、清水均先生のゼミに所属をしていました。
清水先生は基本的に、村上春樹さんや山田詠美さんなど現代の作家の作品や、J-POPの歌詞などをテキストにしますが、福音館書店の「こどものとも」も今の作品だなと思います。
それは仕事を通してというよりも、年間購読で毎月の配本で届く絵本と、その時期の思い出が混ざり合って、本棚に並んでいる!と感じたことがあったからです。
いろいろな絵本がもちろんありますが、私は私で、今を生きている作家として今の子どもに向けて本を書いているんだと思ったとき、清水先生の授業で学んできたことと通じるところがあるかも、とうれしくなりました。
それから、詩人の金子みすゞさんを教えてくれたのも清水先生で、金子みすゞさんの作品に私は本当に影響を受けました。
授業の中で取り上げてくれたのは、そんな私へのサービスだったのかなと思っています。
宿題で小論文を提出しなくてはならないところを、”詩”を提出して、でもそれを清水先生は受け入れてくれて、国文学を真面目に学ぼうと思っていた割には好き放題だったかも知れませんね。
私たちのゼミ旅行は、村上春樹さんの『羊をめぐる冒険』に因んで、北海道に羊を見に行きました。
それから清水先生は沈丁花が好きなのですが、ヴェリタス祭で「沈丁花」という名前のお茶漬け店さんを出店した思い出もあります。
本当に楽しかったですね。
チャーはみんなのことも聞きたかったんだよね
ーー 大川さんのこれからのビジョンをお話いただけますか?
近いところの目標では、今進行している企画をちゃんと世に出すことです。
私はボツになることを怖れていて、無事に出版されるまでは、途中で企画が止まってしまうのではないかと、いつも不安に思っています。
この10年間、ずっとそうでした。
でも、こんなに幸福感あふれる仕事をしているのに不安なのはなぜなんだろうと考えました。
そして、もっと編集の方や、そして何より自分自身を信頼して、楽しく仕事をしていこうと、なんというか、”設定”を変えました。
不安を見つめて理解したんです。
私はずっと商業出版にこだわってきていて、職業として作家になろうとしていたんですね。
でも、今、絵本を作りたいという人のお手伝いをする仕事(「おはなしのね。」)もはじめていて思うのは、創作のよろこびという根本的なところに立ち返ることです。
私はゼミや授業で率先して意見を言って、言葉も多くて、それで我が強く思われていたところがあると思います。
しかし、清水先生から卒業のときにもらった手紙にこんなふうに書かれていました。
自分が先に発言をすれば、みんなの意見を聞けるかな?
という私の気持ちを見抜いてくれたことがうれしかったです。
だから同じように、私の言葉がきっかけになって、「大川さんの絵本を読むと私も絵本が書きたくなる」と思ってもらえたらいいなって思います。
私が特別なことを書けているわけではなくて、誰かもきっと感じていることを、たまたま私が言葉にしているのだと思っています。
そして、やっぱり最終的なところでは、「世界が平和になったらいいな」というのが究極のビジョンなのだと思います。
実は大川さんに内緒で清水均先生からメッセージをいただいています。
↓
チャペルで同級生のコンサートを楽しみたい
ーー それでは、最後に、これからの聖学院に期待していることや望んでいることがあればお聞かせください
新しいチャペルが完成したときに、私たち卒業生も招待していただきました。
そこで同級生たちと、このチャペルでコンサートをしたいねと話していたのを思い出しました。
清水ゼミに、とてもなかよしだった金刺美穂さんという同級生がいて、今でも連絡を取り合っています。
美穂は歌が大好きで、私も歌が好きだったので、短大時代は一緒によく歌いました。
清水ゼミで、中庭に出て青空授業とかもやりましたが、やっぱりみんなで歌いました。
そして美穂は、短大を卒業してから、なんと、プロの声楽家になったんです!
現在は、コンサートなどでとても活躍しています。
聖学院大学のチャペルで金刺美穂さんのコンサートを実施して、同級生たちが集まる、なんてことが実現できたら素敵ですね。
ーー 大川さんありがとうございました
同級生のチャペルコンサート、いいですね、提案してみましょう
(取材:2023年3月)
せっかくカフェでの取材だったので、
取材のあと、ランチをいただきました。とてもおいしかったです。
●ご寄付によるご支援をお願いします→こちらから
最後までお読みいただきありがとうございました。
大川さんの応援、どうぞよろしくお願いします。
まずは♡(スキ)で応援してくださいね。