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生演奏を、格差なく、子どもたちへ届けたい|#038 金刺 美穂さん

女子聖学院短期大学 国文科 卒業

女子聖学院短大の卒業生で絵本童話作家の大川久乃さんを取材したとき、声楽家として大活躍されている同級生のお友だちがいらっしゃるとうかがいました。

そのお友だち、金刺美穂(かねざし みほ)さんについて調べたところ、短大卒業後、銀行に就職し、銀行を退職して藤原歌劇団のオペラ歌手育成部で学び、現在はソプラノ歌手としてコンサートに飛び回られているという、そのプロフィールにとても興味がわきました。

さっそく取材をお願いし、お会いできることを楽しみに待っていました。
実際にお会いしてみると、想像していた以上にポジティブで、志が高く、そしてとても明るい方で、想像した以上の楽しい取材となりました。


大好きな村上春樹さんを題材としたゼミ

ーー 金刺さんのプロフィールを拝見しまして、音大出身じゃなくてもオペラ歌手になれるんだ!と驚きました。短大に入学してから現在までのことに、とても興味があるのですが、お話しいただけますでしょうか?

私が女子聖学院短大に興味を持ったのは、心理学の授業があったからです。

本当は4年生大学で心理学を学びたいと思っていたのですが、受験がうまくいきませんでした。
どうしようかなと思っていたら、高校の先生に女子聖短大を紹介されて、それで調べてみたら女子聖短大にあったんですよ、心理学!
箱庭療法の演習など印象に残っていますね。
それから、藤田 明先生の『オペラの中の人間像』などの授業が面白そうで、そうした授業に魅かれて入学しました。

入学してみたら、同級生が本当に素敵な人たちばかりでした。
高校では、受け身の事が多くて、それに慣れてしまっている自分がいたのですが、大学ではみんな主体的で、自分で何でも選ぶ人たちだから楽しいんですよ。
いろんな素敵な人たちと出会いました。

私は高校生のときに村上春樹さんにはまって大好きだったのですが、なんと清水均先生のゼミで村上春樹さんをやるというので、私の興味にドンピシャだったんです。
高校生のときは一つの作品をじっくり味わうということがなかったので、短大で、じっくり考えて自分で答えを見つけていくということの楽しさを知りました。

より自分の歌を極めていきたいと強く感じて

卒業後は銀行に就職したのですが、金融機関で働きたいという強い思いがあったわけではありません。

高校での進路選択で苦戦したので、私はきちんとやらないとダメなタイプだとわかっていましたので、就職課にバックアップしてもらって試験対策や面接に真剣に取り組んだところ、就職活動が楽しくなりました。
その結果、いろいろなところから内定をいただき、その中から銀行を選択しました。

歌をはじめたのは短大時代です。
短大のサークルではなくて、家の近所の歌の教室で習うようになりました。
ピアノは子どもの頃からやっていて、小学校でも4年生から合唱の課外活動に参加していましたが、本格的にクラシックと出会ったのはこのときがはじめてでした。

そして、この教室で私の人生を変えた師匠の一人にも出会いました。

短大時代から合唱団に所属していて、銀行に入ってからも歌を続けていました。
銀行のきっちりした仕事はストレスが多いのですが、クラシックは癒しとなり、合唱団で歌うことがそうしたストレスの発散となっていました。

そして、いつか合唱団だけではなく、もっと歌をうたいたい、自分の歌を極めたいという気持ちが湧いてきてしまったんです。

藤原歌劇団の研修学校のことは、友だちから「美穂ちゃんやってみたら?」と軽くすすめられたのがきっかけでした。
その言葉で研修学校の存在を知って調べてみると、音大に行っていなくても実力があれば大丈夫と書いてあったんです。
それで、これはチャンスだと思ってチャレンジしました。

音大を卒業している人は、研修生専門コースの2年から学べるのですが、私は音大を出ていないので、選科生コースを選んで、1年間基礎を学び、専門コース2年生にチャレンジして合格し、より深く学ばせていただきました。

クラシックを学ぶのは何かとお金がかかります。
銀行を退職してしまったので、収入を得るために歯科助手のアルバイトなどをしながら学びました。

私以外の人は、音楽大学や大学院を卒業されている方で、何年も音楽を専門に学んできているのでレベルが全然違います。
そのため、変なライバル意識とかを持たずに、謙虚な気持ちで学ぶことができました。

研修学校では、コレペティートルの先生、イタリア語の先生、演出の先生など一流の先生方から学ばせていただきました。
また、日本のオペラ、日本語の歌唱の方法も学ぶことができました。
そして、イタリアでの研修がとても有意義なものでした。

金刺さんに、とっておきの1曲をお聞きしました

ラフマニノフのヴォカリーゼ
歌の武器である 言葉がなくて、母音のみで歌われます。
声という楽器、歌う人の声の響きのみで表現される曲です。
 メロディーが、直接ハートに届き、スーと身体の中に溶け合う感覚に陥ります。
 言葉の無い歌が、世界を感動させた曲だと思います。
 とにかく、美しい。大好きな曲です。
 表現するのも、歌うのも、とても難しいのですが、
ずっと、歌い続けていきたい、追求していきたい、私のとっておきの1曲です。

アカデミー事業、地域に根付いた音楽活動、社会貢献活動事業

ーー そして、現在につながるわけですね。金刺さんの現在の音楽活動についてお話しいただけますか?

今回の取材で現在の音楽活動について書き出してみたら、我ながら本当に様々な活動を行っているんだなということに気がつきました。

まず、自分的にアカデミー事業と呼んでいる活動があります。

アカデミー事業の中に種まき活動というのがあります。
ピアニストの吉田さんと一緒に「ぽこあぽこ」というデュオで、未就学児の親子を対象として、保育園や幼稚園、児童館にうかがって、生演奏でクラシック音楽などを楽しんでもらう出前コンサートの活動をもう10年くらいやっています。
はとがや助産所さんの親子ふれあいコンサートには5年間連続で出演しています。
音楽の良い影響を受けるには若ければ若いほど良いんですよ。
ある意味、私の音楽活動の原点と言えるかなと思います。

アカデミー事業としては、もう一つ歌仲間を増やす活動と言っている活動があります。
その一つが「TIDA大人の乙女のコーラス隊」です。
2016年1月に結成して、毎年クリスマスコンサートを開催しています。
助産師さんの歌いたいというニーズからスタートして、議員さんや保育士さんなど30歳代から70歳代までの女性が参加されています。

「TIDA少年少女合唱団」は2020年4月に結成しました。
コロナ禍で子どもたちが歌うことができない時期を過ごしていたので、「何かやらなきゃ!」という使命感で立ち上げました。
月一回の練習で、毎年11月の埼玉県のオータムコンサートに出演しています。
きちんとしたホールで歌うと、力まないで歌えるのですが、学校ではなかなかそういう経験ができないので、ホールの響きを体感してもらう良い機会だと考えています。

「TIDA元気ハツラツ」は2021年1月に結成しました。
私の母が歌いたいと言ったところからはじまりました。
60歳代から80歳代の方が対象で、今まで「自分は歌えない」と言って、歌ったことがなかった人たちも参加されています。
みんなちゃんと歌えているんですよ!

その他にも、地域に根付いた音楽活動として、新郷コミュニティオーケストラのメンバーとの共演で定期的にコンサートをしています。

社会貢献活動事業と分類している活動では、TIDA音楽企画主催でハロウィンやクリスマスにコンサートを行っています。

TIDA音楽企画のTIDAとは沖縄の言葉で太陽という意味です。
太陽のように、生きるエネルギーを生演奏で、お届けしたいという強い想いが込められています。『太陽の子』(灰谷健次郎)の本でティーダ(てぃだぁ)という言葉を初めて知りました。


音楽うた物語「よだかの星」ダイジェスト
(2022年12月26日テオリアプロジェクト第1回公演より)


【埼玉県歌 一部手話付き】
埼玉県150周年を記念して、ピアニスト南雲彩さんプロデュースで歌わせていただきました。


【猫の二重唱 ロッシーニ作曲】
歌詞は猫の鳴き声のみで、歌ってます。とてもユニークなデュエットです。

生演奏を、格差なく、子どもたちへ届けたい

ーー 金刺さんの今年の目標と、今後のビジョンをお聞かせいただけますか?

今年の目標は、実はもう達成の見込みがついているんです。
私はずっと自分の出身校に恩返しがしたいと思っていて、小学校や中学校での公演活動を目標としてきたのですが、文化庁公演活動をされている森のテオリアのメンバーとの出会いがあり、文化庁事業利用で、学校負担なしの公演を学校に紹介できるようになりました。

そして昨年、母校である新郷東小学校や娘の通っていた里小学校での公演が実現しました。
今年は里中学校や山梨県や宮崎県の学校など、8校ほど公演が決まっています。

私の夢は生きた鑑賞教材として学校で生演奏を鑑賞してもらう活動が、広く日本全国で普及されて一般的になることです。

学校で生演奏に触れる機会があったら、そこから音楽に興味を持って、自分でクラシックコンサートに行こうと思う人がもっと増えると思います。
そうやってリッチマインド(金刺さんの造語 : 「本当の意味で心が豊かな」という意味)を育めば、子どもたちはもっと強くなれるし、病むことも減ると思うんです。

文化芸術を理解することによって、感性が豊かになります。
そうすると、子どもたちは、きっと生きることが楽しくなります。

耐性も高まり、どんな状況のときであっても、自ら考え、感じ、創造し、たくましく生きていける人になると思います。

感性を磨くことの研究を期待しています

ーー 最後に、卒業生として、これからの聖学院に期待していること望んでいることをお聞かせください。

これからはいろいろな仕事がAIにとって変わられる時代になると思います。
そこで人間は何ができるのかと考えると、重要なのは”感性”だと思うのです。
人間の武器であり、人間にしかできない、感性を磨くというところの研究を学校である聖学院に期待したいと思います。
(取材:2023年4月)

ーー 金刺さんありがとうございました。
音楽の魅力を伝える活動、これからも頑張ってください。
応援しています。

↓短大の同級生、絵本作家の大川さんから金刺さんへのあたたかいメッセージをいただきました♡

美穂へ

覚えていますか? 入学して初っ端にあったオリエンテーリング合宿に向かう車内で、わたしたち偶然にも隣同士の席だったこと。
小柄で色白、弾ける明るさが滲み出てて、美穂の最初の印象はわたしの緊張をほぐしてくれました。
「いい子そう」はまちがいなかったけど、短大生活の2年間、そして卒業して20年以上がたっても尚、貴女みたいな人、そう居ないです。一言でいうと、めっちゃおもしろい。「美穂ってめっちゃおもしろい!」 ってわたしずっと言い続けてきましたよ、多分。

でもね、このたび貴女の記事をひと足先に読ませてもらって、心底、感動しています。そして何も知らなかったなあと、衝撃さえ感じています。美穂の情熱はずっと体験してきたけど、今回は客観的に、美穂のトーンをややおさえて(貴女はメールでもlineでもハガキでさえも、その生きた熱が伝わってくるから)半生を読ませてもらいました。美穂が見ている景色を、垣間見せてもらいました。

そこには、わたしが「めっちゃおもしろい」といってしまうことでそれ以上は触れられないでいた、真摯な、愛の、軌跡と結晶があった。自分の中の秘宝のような、燃える太陽の原石を、誰かに認めさせるでもなく自分で知っていて、守り、実現させるべく歩みをとめることのない貴方は……女剣士か、どこか南国の女神さまみたい。おおげさかな。

貴女は誰かと群れることを好まない人でした。そんな美穂と特に学生時代、親密に過ごせたのは本当にラッキーだったな。わたしはわたしで、好き勝手に見たいものを見ていたからでしょう。そんなわたしが美穂自身のことをどう言葉にしようと、許してきてくれたことも今なら分かる気がします。わたしは、子どもだったよね。

美穂には10代の頃から孤独さがあった気がします。賑やかな人なのに、自分を分かってもらおうと言葉を重ねるようなことは実は一度もしてなくて、鼻歌どころか声高らかに、歌いたいときに歌って、辺りを照らしてしまう。そんな美穂の歌声が、日本全国、地球のあちこちで、花を咲かせていく。それを誰より信じている美穂自身の強さが、改めてわたしには今、眩しい。

いつかおばあちゃんになったとき、また健康ランドで長風呂しては歌えるように。そこに辿り着く道は、わたしはわたしの道をいくことでしか、きっとないのよね、美穂。 

ちゃあより

●金刺 美穂(かねざし みほ)さん プロフィール
本名 小堀 美穂(こぼり みほ)
ソプラノ歌手
女子聖学院短期大学 国文科卒業(女子聖学院短期大学は現在は学生募集を終了しております)
(財)日本オペラ振興会オペラ歌手育成部23期修了
オペラ『イル・カンピエッロ』ガスパリーナ役でオペラデビュー
『フィガロの結婚』『カルメン』等多数出演。
ウィーンへ留学し、研鑽を積む。
TIDA音楽企画代表、藤原歌劇団所属


「誰一人取り残さない」世界の実現を目指して
聖学院は教育で社会に貢献しています


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最後までお読みいただきありがとうございました。
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