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来た時よりも美しく|#021 武本 花奈さん

聖学院大学 政治経済学部 卒業

現在、作品の募集期間中の聖学院広報センターが主催する『聖学院SDGsコンテスト 』は今年が第3回目の開催となります。
このコンテストの第1回目から審査員を務めていただいている武本花奈カメラマンは、実は聖学院大学の卒業生です。
武本さんはカメラマンであるご自身のミッションとして、ALSの患者さんをはじめ、難病の患者さんの写真をずっと撮り続けています。
コンテストの打ち合わせを兼ねて、武本さんご自身のお仕事への想いや、大学時代のことなどを取材させていただきました。

聖学院SDGsコンテスト フォト&ムービー部門(テーマ:未来に残したいもの)は聖学院関係者を対象とした写真と動画のコンテストです。
聖学院各校の児童、生徒、学生の他、教職員、保護者、卒業生からの作品を募集しています。
詳しくは応募ページ↓をご確認ください。



社会や政治への関心とカメラへの興味

ーー武本さんはいつ頃からカメラマンになろうと思ったのですか?

本気でめざそうと思ったのは大学生のときです。
小学生の頃にテレビで見たカメラマンに憧れたり、ときどき思い出したようにカメラマンへの関心が高まった時期はありましたが、私の親は普通に大学に行って、就職して、いい人を見つけて結婚してくらいに考えていましたし、とてもカメラマンになりたいなんて強く言える時代ではありませんでした。

世の中をきちんと見て、知りたいと思っていたので、社会や政治に興味があり、大学は政治経済学部のある大学という探し方をしました。
日本と違う文化のことも知りたいと思っていたのでで、キリスト教の大学である聖学院大学はまさにぴったりの大学でした。
世の中を見たいという思いが、一方で写真を撮りたいということにもつながっていたのだと思います。

私は子どもの頃から、社会の一員でありたいという意識がありました。
人は一人では生きることはできないので、自然に芽生えた気持ちだと思います。
大学に入って、たくさん本を読んで、いろいろな経験をしている先輩たちはとても大人に見え憧れの存在でした。
その大人な先輩たちが授業やゼミを通して、自分に対等に話をしてくれたとき、少しだけ社会の一員になれた気がしました。
そして、たくさん大学で刺激を受ける中、自分は将来何をしていこう、どうやって社会の役に立てるだろうとずっと考えていた気がします。
「写真を撮ることで、役に立ちたい」それが、自分で出した答えでした。

カメラマンになると決めてからは積極的に行動を開始しました。
まず、アルバイトをしたお金で中古のコンタックスのカメラを買いました。
もちろん今でもすごく大切にしています。
今ではそのカメラで撮影することはありませんが、レンズは今でも使っています。
それから、大学に通いながら、夜間に写真の専門学校にも通いました。
我ながらすごいエネルギーだったなと思います。

来た時よりも美しく

ーーALSの患者さんを撮影するようになったのはどんな経緯からですか?

大学を卒業して、スタジオで働いたりアシスタントをして、毎日毎日深夜まで働くような時代でしたから、今思うと本当に必死で働いたなと思います。
やがて独り立ちできるようになって、結婚をしました。
子どもも生まれました。
それで、なんとなく描いていた夢が実現できたなと感じたときに、ふと「私はなんでカメラマンになったんだっけ?」と思ったのです。
まだ自分は撮りたかった写真を撮っていないぞと。

喜多川 泰(きたがわ やすし)さんという作家さんの『One World』(2014 , サンマーク出版)という小説に掲載する写真のお仕事の依頼がありました。
私は以前から喜多川さんの作品の大ファンだったので、お仕事をいただいたときはホントにうれしくて、舞い上がってしまいました。
これはオムニバスの短編小説集なのですが、一つの話に脇役で登場する人物が次の小説の主人公になっていて、全部の小説がつながっていきます。
この小説の中に「来た時よりも美しく」という言葉が登場するのですが、この言葉を知ったことが、私の人生に大きな影響を与えたと思っています。

昔から、死というものが淡々と私の身近にあって、近所のお兄さんやお姉さんが事故や病気で亡くなってしまうことがありました。
今までいた人がある日突然いなくなる、その悲しみに浸るということではなくて、人というのはいつ終わりになるのかわからないものなんだなと思いました。
だとしたら、その時まで私は何をしましょう。
「来た時よりも美しく」と思ったのです。

喜多川さんの仕事の直後に、私はALSの患者さんとはじめて出会いました。
地球の裏側とかじゃなくて、すぐ目の前なのに、私がまったく知らない世界で生きている人たちがいるということが衝撃でした。
この人たちが何を見て、何を考えているのか、そしてこうした人たちがいることを社会が知ってほしいと思いました。
ALSとは筋萎縮性側索硬化症と言って指定難病の一つです。
タンパク質の異常が見られて、身体が末端からどんどん動かなくなってしまう病気なのですが、原因は不明で、治療法もありません。
若い方は発症し難いとか、男性が多いとか言われていますが、20歳代から高齢の方まで発症の時期はばらばらで、男性だけではなくて女性の患者さんも私はたくさん見てきています。
病気への理解が薄くて、行政や病院の対応に対して憤りを感じることも少なくありません。
こうした病気があり、苦しんでいる人たちがいることを多くの人に知ってほしいと思いますし、ALSを治る病気にしたいというのが私の願いでもあります。

中央の女性は、障がい者の目の合図で、会話をサポートしています。

↓こちらのトークセッションもぜひご覧ください


見えないラインを消したい

ーー武本さんが写真を撮ることによって実現させたいと考えているのはどんな社会ですか?

差別を減らしたいですね。

例えば、難病の患者さんと健常者の間にはラインが引かれています。
その引かれたラインがじゃまになって、お互いの交流を難しくしていると思います。
また自分が健常者であるが故に、完璧でなくてはならないと考えて消耗してしまうこともあります。
社会には、いたるところにこうしたラインが引かれていて、それは分断を生み出しています。

私は自分の写真を通して、こうしたラインを一つずつ消していきたいと考えています。
それがおそらく私のミッションです。

SMAという難病を持つ小学生。
呼吸器をつけて車いすに乗って、小学校にお母さんと通学。

世界には様々な人がいて、難病の方という括りでみんなが一緒ではなく、健康な方という括りでみんなが一緒でもありません。
それぞれに違いがあって、自分とまったく同じ人なんて世界のどこにもいません。
そうした一人ひとり違う人たちがいて、そして地球という一つの星を作っているのだと思います。
そこに人を分けるラインや飛び越えなくてはならない柵は必要ないのです。


かけがえのない時間、土方ゼミ

ーー武本さんにとって聖学院大学とはどのような場所でしたか?

聖学院大学ではいっぱい本を読み、いっぱい勉強をし、そしていっぱい考えました。
それができた、それをさせてくれた本当に大事な場所です。

私は土方 透先生の社会学のゼミに所属していました。
土方ゼミでは研究するテーマを自分で見つけなくてはならないのですが、そうした学び方をそれまでしてきていなかったので、最初は本当に戸惑いました。
ゼミには2年生から所属し、基本的には同級生のゼミのクラスになるのですが、別の学年のゼミに参加することも自由です。
人は大人になって自立するためには、その前に反抗をする時期が必要だと思っています。
今思い出すと、青臭かった自分が恥ずかしくもありますが、私のしつこいほどの疑問を受け止めてくれた先生や先輩たちに出会えたあのゼミの時間は、かけがえのない宝物だと思っています。

それぞれ違いのある様々な人たちが、その違いを認め合いながら、先輩も後輩も関係なく共通の話題を話せる楽しさ。
多様な人たちが一緒に暮らせることが理想的な社会と考えているのは、ゼミが楽しかったからなのかも知れません。

コンテストに応募して、身近にある大切な何かを見つけてほしい

ーー聖学院SDGsコンテストの感想をお聞かせいただけますか?

毎年、本当に楽しく審査をさせていただいています。

写真を撮る人は自分が気がついたものにしかシャッターを切れないんです。
だから写真を見ると、写真のテーマを通して、撮った人が何を見ていたのか、何に気がついたのかがわかります。
そうした誰かの視点や思考を見られることは本当に楽しいし、カメラマンの自分にとってもたいへん勉強になることです。

あるお寺にある大きなしだれ桜の木、
維持をすることにはみんなの協力が必要です。

SDGsは17のゴールがあります。
コンテストの応募者は、宝探しのように、そのゴールの中から被写体として何を選ぶべきかを楽しみながら考えてくれていると思います。
撮る人が大切なことを考えるきっかけになりますし、その作品を見る人の考えるきっかけにもなる、本当に素晴らしい取り組みだと思います。
わざわざ遠くまで行かずに、自分の身近なところでSDGsを探してもらえたら、自分の町にどんな課題があって、どんな美しいことがあるかが理解できると思うのです。
以前自分が撮った写真が、SDGsのいったいどれに当てはまるだろうかと後から考えることも意味があると思います。

最近、私は体力的な理由から大きな重いカメラを置き、小さいカメラを持って町を歩こうと思っています。
カメラを軽くすることで心身ともに身軽にして、今まで以上にもっと楽しく写真が撮れたらいいなと考えています。

たくさんのみなさんからの素敵な写真の応募を期待しています。
ぜひチャレンジしてみてください。
(取材日:2022年9月)

ーー武本さん、取材のご協力ありがとうございました。
  コンテストの審査、どうぞよろしくお願いします。

小さなカメラで町の1シーンを撮影

↓ 聖学院関係者のみなさん、写真・動画のご応募はこちらから。

 こちらは2022年9月時点での情報です。募集は終了しています。

●武本 花奈(たけもと はな)さん プロフィール
カメラマン
聖学院大学 政治経済学部 卒業 
広告、書籍の撮影などを手がける傍ら、2014年より難病ALS患者の撮影を開始
著書に「これからも生きていくー難病ALS患者からのメッセージ」(2020, 春陽堂書店)
『季刊 福祉労働』にてフォトエッセイ「インクルーシブに生きるふつうの人」を連載中

誰一人取り残さない」世界の実現を目指して
聖学院は教育で社会に貢献しています。

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最後までお読みいただきありがとうございました。
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